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ジャーナルハイライト

2011.12.13

A/H1N1pdm2009でも耐性ウイルスの市中流行に警戒を

新潟大学大学院医歯学系国際保健学分野教授 齋藤玲子氏

ノルウェーでAソ連型インフルエンザウイルス(H1N1)に75%という高い割合でタミフル耐性ウイルスが見つかったのは2008年のことだった。当時「これまでの常識を覆す出来事」と指摘した新潟大学大学院医歯学系国際保健学分野教授の齋藤玲子氏は、A/H1N1pdm2009でも同じ事態が起こりうるとし、警戒を怠るべきでないと指摘する。

新潟大学大学院医歯学系国際保健学分野教授の齋藤玲子氏

―― この夏でしたが、オーストラリアのニューサウスウエールズ州で、これまでで最も多いタミフル耐性A(H1N1)2009ウイルスの感染例が確認されました。同国の発表によると、今年5月から8月にかけて、インフルエンザ感染者184人中25人(14%)からタミフル耐性株が確認されたということです。WHOのサーベイランスでは、A/H1N1pdm2009ウイルスのタミフル耐性率は1.5%ほどでしたから、その10倍に迫るものでした。

齋藤 A/H1N1pdm2009でも耐性ウイルスの市中流行が始まったのかどうかは、注意深くみていく必要があります。今回のオーストラリアでの件は、その後、耐性株の流行が広がったという報告は見当たりませんので、かなり限局された耐性株の流行だったのではないかと思います。

―― 日本では、2010/2011シーズンのタミフルあるいはラピアクタの耐性株は、A/H1N1pdm2009で2.0%というデータが国立感染研究所感染症情報センターから発表されています。

齋藤 抗インフルエンザ薬の投与例から見つかった事例も含んでいますので、市中流行という視点で見ると数字は低くなると思います。私たちの研究グループで把握できたのは、2010/2011シーズンは0.5%でした(図1)。414分離株からH274Y変異株が2株見つかっていますが、すべて初診時の検体です。

図1 タミフル耐性ウイルスの検出率(季節性H1N1と新型H1N1、齋藤氏ら)

図1 タミフル耐性ウイルスの検出率(季節性H1N1と新型H1N1、齋藤氏ら)

―― 図1には2008/2009シーズンにおいて、Aソ連型インフルエンザウイルスのすべてがタミフル耐性株だったことも示されています。かつてはアマンタジン耐性株(H3N2)の流行もあったわけですが、A/H1N1pdm2009でも同じことが起こりうるのでしょうか。

齋藤 この図からは、大きく3つのことが分かります。まずAソ連型タミフル耐性ウイルスは、2009/2010シーズン以降、姿を消したということです。2009年に発生した新型インフルエンザ(A/H1N1pdm2009)にとって代わられ、流行の圏外へ追いやられてしまったのだと思います。もう1つは、耐性ウイルスの出現は突然だということです。

―― 先生方は、アマンタジン耐性についても長年研究を続けていますが、以前お話をうかがった際、アマンタジン耐性の出現も「突然の激増」だったということでした(図2)。同じようなことがAソ連型にも起こったわけですが、2度あることは3度あるとも考えられます。今後A/H1N1pdm2009でも耐性株の突然の流行がありうるのではないかと危惧しています。

図2 H3N2におけるアマンタジン耐性株の出現(Bright et al. Lancet 2005)

図2 H3N2におけるアマンタジン耐性株の出現(Bright et al. Lancet 2005)

齋藤 図1から読み取れる3つ目のポイントは、タミフルの使用量と耐性株の流行の関連性です。日本では2001年のシーズンからタミフルの使用が始まったわけですが、耐性株が100%になるまでに7シーズンほど時間が経っています。単純に考えると、A/H1N1pdm2009に対するタミフル治療は2009年から始まったわけですから、直ちに耐性株が市中流行するとは考えにくい面もあります。

ただし、アマンタジンの時は、耐性株の流行が先行した中国では、SARSや鳥インフルエンザの発生が確認されたころで人や動物でアマンタジンの使用量が激増したと言われており、耐性株の流行との関連性が指摘されていました。つまり、新型が発生した際にも、タミフルの使用量が大幅に増えたことが考えられますから、全世界的にみれば、A/H1N1pdm2009においても耐性株の突然の流行は、いつ起こってもおかしくはないということになります。

―― Aソ連型タミフル耐性ウイルスが流行した当時、先生は「これまでの常識を覆す出来事」と指摘されました。

齋藤 タミフル耐性株はあまり伝播しないというのが、いわば常識化していたからです。その後の研究で、Aソ連型タミフル耐性ウイルスのH274Y変異株では、NA蛋白に起こったR222Q変異とV234M変異が、H274Y変異株に確認されたNA蛋白の機能低下を防いでいたため、大流行を起こしたと考えられるとする論文が発表されました(Bloom,et al.Science 2010)。A/H1N1pdm2009においても、このような変異の重積が起こらないとも限りません。今後も注意深く、ウイルスサーベイランスを進めていくべきです。

※日経BP社の許可を得て日経メディカルオンライン「パンデミックに挑む」の記事を転載したものです。無断転載・複製を禁止します。

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